闇夜と、吹雪と、機能が鈍っていく己の身体。
寒いという感覚はとうに通り越していて、歩を進めねばたちまちに凍ってしまいそうだった。しかし足の動きは小さい。
防寒着など着用していなかった。夢にそこまで期待するのも愚かだった。
平坦な道をひたすらに歩いた。光も見えず、俺以外の生物の気配すらしない。
そこは死の世界だった。過剰な寒さは命を容易く奪う。言うなれば死神の鎌が絶えず喉元に当てられているような。
これは恐怖だ。
これは孤独だ。
とうとう力尽き、雪原に身を投げ出した。生きることを放棄した身体は次第に体温を下げていく。
呼吸は細く短く。まばたきは遅く重く。
朽ち果てることも許されずに、腐り落ちることも許されず。
凍ってゆく。止まってゆく。
たった独りで。
「――ッ!!」
意識が浮かんだ瞬間に跳ね起きた。脈拍は乱れ、吐き出す呼気は荒い。
夢の中の寒さが身体にこびりついている気がして自らの身体を掻き抱いた。空調は絶えず稼働しているはずだった。それなのに今にも凍えてしまいそうなほど寒かった。
情けなく奥歯が鳴るのを止められない。眠りに逃避することもできない。できることといえば、ひたすら朝を待つことだけだった。
暗闇は孤独と寒さを助長する。灯りをつける動作は忘れていた。
ドアがスライドする音がして、わずかに顔を上げる。起きてそのまま来たのだろうか、ぺたぺたと裸足で床を歩く音がした。
「真上」
ああ、どうしてお前はこんな時にばかり。
放っておいてほしいのに。
捨て置いてほしいのに。
どうして。
「……帰れ」
「嫌」
「海動…!」
「帰らねえ」
来るな。
来ないでくれ。
お前まで、凍えてしまう。
頼むから。
「んな泣きそうなツラしてるヤツをほっとけるわけねえだろ」
熱に包まれた。冷え切った身体を溶かしてしまいそうな熱は冷えることもなく俺の身体をあたためた。
一人でよかった。
ひとりは怖かった。
独りは寒かった。
「ホント、世話の焼けるヤツ」
熱が増えて、二人になった。
熱が移って。
体温が感染って。
もう凍えなくていいのだと、そっと息をこぼした。
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寒くて一人で寂しかったけど海動がいるならもう平気だよってお話
豆腐メンタル真上ちゃんおいしいです
読んでくださってありがとうございました
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